頑固な親父をもった青年と、その恋人がいる。
二人は大変なトラ狂(キチ)で、暇をみつけては甲子園に行って応援するのが唯一の楽
しみである。
1985年の阪神タイガースは例年に比べて一味違っていた。
掛布、岡田、それにバースの驚異的なホームラン攻撃と、二度目の監督を務める吉田の
見違えるような采配に、ファンは今年はひょっとして優勝するのではないかと思い始めた
のである。
しかし、一喜一憂する二人に水を差すのが親父である。
「ええ加減にせえ!たかが野球に……もっと仕事に精を出せ……!」いさかいは絶えな
かった。その上にある日その青年を襲った腹痛は、不治の病(数ヶ月の命)医者から告げ
られる。
父親は見舞いに来た息子の恋人や阪神ファンの友人達を「お前達のせいや!……」と追
い出してしまう。
タイガースは多少の浮き沈みはあるものの、将星を重ねて行き優勝に王手をかけたのだ。
まさに日本列島はタイガース・フィーバー一色に塗り潰されたのである。
いつもの様になじみのファンが集まっているスナックに、あのわからず屋の親父が突然
現れる。「あんたの来る所と違う!出て行って……」スナックのあばさんは大声でどなっ
た。しかし親父は以外にも「息子がマジック1の試合を観たがっている。是非皆で連れて
行ってやってくれ……」と涙ながらに頼むのであった……。
久しぶりに球場に行った彼が目にしたもの、それはタイガース・ファンが夢にまで見た
21年ぶりの優勝、奇しくも球団創立50周年を飾るに最もふさわしい栄光の瞬間だった
のだ。そして”六甲おろし”と紙吹雪の舞う中に緞帳降りる。
初演 1986年4月26日
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